テレビ人の矜持
「題名のない音楽会」をはじめ数々の名番組を作り続けるテレビマンユニオンとはいったいどんな会社なのだろうか?
重延浩『テレビジョンは状況である―劇的テレビマンユニオン史』岩波書店2013は1979年からほぼ現在まで社長会長を続けてきた重信氏による私的社史である。
テレビ番組作りなど視聴率とスポンサーばかりを気にしたただの売り物だと思っていたがこの本を読んで少し考えが改まった。表現の世界に共通する魂のようなものを感じるし、崇高な理念、理想を掲げて、しかし現実を前にして苦闘しているテレビ人の矜持がひしひしと伝わる。何にもまして創造の哲学が感じられる。
著者の最も気になる人はスティーブ・ジョブズであり、ジョブズが「頭をオフにするときはテレビをオンにして頭をオンにする時はコンピューターをオンにする」という言葉を残していたことにショックを受けて頭をオンにする番組を目指すことが一つの目標だったようだ。そしてそのために二つのことが掲げられる。一つはこれもジョブズの言った言葉であり「顧客が望むものではなく顧客が望むようになるもの」を創るである。そしてもう一つは「デジタルテクノロジーの時代であるからこそ逆に人間が共生、共感する哲学、ソフトの創造」である。つまりは人より一歩先にある人々の共感を生み出すということになる。
創るといいうことはそういうことだと共感する。テレビ人だからこその時間性を感じる。僕らには欠けていることかもしれない。