形式性のバイパスを通り抜けるもの


*7.
篠原一男「住宅設計の主体性」『建築』1964年4月号

*8.
インターナショナルスタイルは単一的理念の世界的様式の創出を目指したものではなく、当時世界的に出現してきた建築の共通点に着目して時代の様式として抽出しようとした試みである。その証拠にMOMAで開かれたこの展覧会に出された作品は全て既存のものでありプロジェクトは無い。
H.-R.ヒッチコック、P.ジョンソン 竹澤秀一訳 『インターナショナルスタイル』1978 鹿島出版会 Henry Russell Hitchcock & Philip Johnson, The International Style, N.Y., 1966

*9.
篠原一男「3つの原空間」『新建築』1964年4月号

*10.
この意味で篠原の象徴概念はシェリングのそれに近い。
佐々木健一「象徴」『美学辞典』東京大学出版会 1995

2、篠原一男の象徴

 篠原は1964年、「住宅設計の主体性」*7 という論文において、住宅設計は「いかなる都市デザインからも自由」である。「敷地は設計の出発点ではない」。「設計はその施主からも自由である」と述べている。モダンアートは既述のとおりミニマルアートをピークとして、作品を構成する物体それ自体の外側にある何物ともリンクしないことを彼岸とした。建築はもちろん再現芸術としての出自を持つものではない。しかし、建築という対象それ自体を意識した時に、その外側の世界という範疇が存在し得る訳で、その意味で建築がモダンアートとリンクしてこの外側の世界との連携を断ち切ろうとしたのがモダニズム建築の一つの側面であった。そのことが結果としてインターナショナルスタイル*8 という形に結実した。しかしインターナショナルスタイル でさえも、建物が敷地や施主から自由であるとは言明しなかったわけで、こうした建築の外部世界、建築の意味を発生させるコンテクストからの離脱を突き詰め、建築の自律的自己言及性を極めたのが篠原の言説であった。

 コンテクストからの離脱を高らかにうたった篠原は、しかし「3つの原空間」(1964)*9 の中で建築の基本空間として「機能空間」「装飾空間」「象徴空間」を定義した。この3つの原空間の中で彼は「象徴空間」を発展的に採用していった。建築をコンテクストから離脱させることを宣言しながら、象徴という意味の発生を促すような概念と結びつけた。もちろん彼の象徴という概念は、決して作品を通してその外部のもの直接的に示すという「アレゴリー」ではなくそれ自体がある精神的な意味を現象させる表現形象である*10 ことは注意しておいてよい。しかし一方で、それが何らかの象徴力を発揮することの裏にはその意味の力学を作るコンテクストの存在を否定できない。その読み取りは後で述べるとして、ここで確認しておくべきことは、この象徴力が建築の外部に直接的に連結するものではないとしても、観者の内面を通して完結的建築の外への飛翔を許容した。その意味では建築の外部へのバイパスとなっているということである。すなわち建築という自律した存在の外側との関係を一切断つことを標榜しつつ、その外部へのバイパスが準備されたという意味において既述のミニマルアートの構造と相同的なものと思われる。

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