建築、設計、コムデギャルソン

SHOP/浅子佳英の『コム・デ・ギャルソンのショップ空間』から。エクスクルーシブからインクルーシブへの変容


 入江  5月の半ばに、大阪のギャルソンのほぼ全店舗を見て来て、昨日は東京の路面店と、いくつか百貨店とを合わせて見て来たんですけれども、それぞれに色があり、売り方の戦略がありますね。普通のインテリアではやらないようなことをやっていて、その辺、浅子佳英さんが文章で書かれていて、すごくうまくまとめられていると思いますね。それからドーバーストリート・マーケット。これは、ある種すごいなと思った。浅子さんの話ともつながると思うんですけれども、実際に行ってみて思ったのが、浅子さんの分析は、コム・デ・ギャルソンの店舗の分析であると同時に、日本の百貨店というものが、なぜ衰退していったのかの分析になっている。言ってみれば、他のブランドのために門構えを作ってやっていると。それが一階のファサードにまで現れているから、本来、その差異で売っていくべき百貨店が、差異自体がなくなって来てしまっていると。例えば、プラダとかヴィトンっていうのが、同じ様なかたちで、どの百貨店にもあるわけですね。そういう中で、ギャルソンというのは、そういう百貨店と比べて、セレクトも内装もちょっと違う作り方をしているわけですよね。で、そのブランドも川久保さんがチョイスしているって聞いたんですけれども。色々チョイスして、新しい百貨店の形式っていうのを、あの銀座で作っているのかなという風に思えて。行ってみて初めてこういう事かと納得できておもしろかったですね。

 

 松田  浅子さんの論文は、僕もとても面白く読みました。コム・デ・ギャルソンのショップの形態を4つに大きく分けていて。第一期はコンテンツ型、第二期はプラットフォーム型、第三期はマーケット型、第四期はグラミンフォン型という名前を付ける。例えばコンテンツ型だと、百貨店の中で、その条件において店を作る。第二のプラットフォーム型だと、それが外に出て、路面店という形式をつくる。第三のマーケット型だと、コム・デ・ギャルソンが店のなかの1つの要素として、店が置かれる環境そのものも全部作っているという状況だと。で、最後のグラミンフォン型だと、ゲリラショップみたいなかたちで、ヨーロッパの様々な都市に一年限定というかたちで店をつくっていくというわけですね。そういう状況を、四段階に分けているんですね。それだけ変化がある事もすごいと思いますが、浅子さんの論文の最後に、この次の 第五期というものを、もし付け加えるとすれば、今度はコラボレーション型かなと思いました。数年前にH&Mとコラボレーションをしたり、要するにファストファッションみたいなところとも、複雑なかたちで共存していくことも試みています。そんなに簡単にはできないことだと思うんですけれども、すごく身軽に、だけれども、決してそこに完全に移ってしまうわけではない、というポジションを、しっかりと確立しながら展開されている。どうしてこんなに的確に動いているんだろうとすごく不思議に思ったりもするんですが、ファッションの方からみると、例えばコム・デ・ギャルソンがH&Mと組んだり するということは、どのように映っているんでしょう。

 

 森永  驚きですね。

 

 松田  やっぱり驚きなんですね(笑)。率直に「驚き」だとお聞きすると、やはり先読みしてると思うんですよ。色んなことを考えて、決断があったと思うんです。で、そう決断する立場に自分をおいてるってこと自体が大事なのだと思います。経営者となった理由は、まさにそういう重大な決断をするためになんでしょうね。1991年でしたか、ヴーヴ・クリコのビジネスウーマン賞みたいのも取られていたりするんですよね。こういう手腕にも、すごく感心します。建築でも、こんなに経営がうまい建築家って、なかなかいないでしょうね。隈研吾さんとかは、そうかもしれないですが。経営とコンセプチュアルなハードコアの部分を同時にやれる人って、どの分野でもなかなかいないと思うので、その意味でもすごいなぁと。

 

 入江  内装と絡んでるんでしょうけど、いろいろな店舗に行って思ったのが、僕なんか、学生時代には、コム・デ・ギャルソンっていうのは、学生にとっては出しにくい金額の高級なブランドというイメージでしたので、中に入ることはなかったんですね。そういう意味で、未知の世界だったのが、今回、まずは大阪の方から回ってみると、店員さんがよく喋ってくれるんですね。で、いろいろ説明してくれる。浅子さんも書いてたと思うんですけれども、商品は全部は並んでないんですよね。だから、話していく中で、実はこういうのもあるんですと言って、奥から出してくれるんですね。そうすると、自然とコミュニケーションが発生するわけですね。今まで、そういうブランドショップっていうと、煌煌とライトに照らされて、店員さんにずっと見られていて、すごく緊張するような印象があったんですが、ちょっと雰囲気が違うなぁと思いました。これはやっぱり大阪だからかなぁと思っていましたが、東京に来てみると、東京の店員さんもよくしゃべってくれるんですね。で、いろいろ説明してくれる。売り手側と買い手側の関係っていうのも、変わってきているという印象を持ちましたね。服のこともいろいろ教えてもらって、すごく時間を楽しめましたね。

 

 松田  もしかしたら、他のブランドショップに比べて、ギャルソンは圧倒的に1つの店舗に置いてるアイテムの数が少ないんじゃないかなって、直感的には思うんですけど。

 

 入江  裏にあるんですよ(笑)。

 

 坂牛  アクシスにつくった店は置いてなかった、一着も。で、喋ると出してくる。

 

 松田  それはすごいですね。

 

 坂牛  さっきの、よく話すっていうのは、80年代当初は、おそらく絶対喋らせなかったんじゃないかっていう気がするんですね。冷徹にクールに、客を客と思わないみたいな感じ。そういう視線を感じてましたよ、僕は。その後意図的に変えてきたんでしょうね。

 

 入江  変わって来たんですかね。

 

 西谷  ここ10年くらいじゃないでしょうか。

 

 坂牛  そうですよね。

 

 西谷  やっぱりプレイとかが変わったきっかけではないですか。今は、あの屋台みたいな感じで売ったりしていますし。きっとその辺で何か戦略上の何かがあったんでしょうね。

 

 坂牛  それはおそらく、建築なんかでも非常にエクスクルーシブにデザインをして、人を寄せ付けないような、人間味のない感じの方がいいっていう時代が、モダニズムの頃にはあるんだけど、それが徐々にインクルーシブに色んなものを受け入れるようになっていく。家具でも、人でも何でも。いいよ、この空間にどうぞっていう。それは建築専門誌なんかでも、何もないところを撮ってきたのが、ある時に、新建築のJTっていう住宅特集では、人が使って、家具が入ったのを撮り出した。社会がイクスクルーシブネス(排他性)を認めなくなってきているのだと思います。人間が使ってなんぼみたいなところが出て来て、そういうことが売り方にも現れているんじゃないかなと。

   

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