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I 希薄都市
(1)希薄な異質性/単調な表皮
ロスアンジェルスの夏は暑い。しかし湿度は低いので直射光さえ遮ればそれほど不快ではない。だからロスアンジェルスの住宅は一般に窓が小さい。壁は厚く熱容量が大きい。砂漠気候のこの地では、昼暑くとも夜は冷え込む。そこで昼間の熱を夜室内に放熱させる仕組みになっている。私のいたアパートも例外ではなく木造フレームの二階建てにスペイン瓦の乗った建物で外壁はスタッコ、内壁は石膏塗りである(図1、2)。このストリートの八割は少なくとも外壁はスタッコである。その理由は、おそらく窓の少ない壁主体の建物をつくる上で木造に塗り仕上げを施すのが、雨の少ないこの地ではメンテナンスも含めて経済的だからであろう。
実際ロスアンジェルスという都市の表層の多くは、スタッコ塗りあるいはそれに類するモルタルの化粧で覆われている。このスタッコ建築の発祥はロスアンジェルスが未だメキシコ領であった19世紀にスペインの伝統を受け継いだメキシコのバナキュラー建築の作り方としてこの地に根付いた。しかしその後20世紀に入りモダニズムが普及した時にも(図3)、この材料は捨て去られることがなかった。コンクリートの上にはモルタルペンキで、木造フレームの上にはスタッコでこの塗り材が受け継がれた。ノイトラ、シンドラー、そしてあのハイテクの元祖であるイームズ自邸にさえ鉄骨間に張られたパネルにスタッコが塗り込められている。そしてもちろんモダニズム以降の建築家達の作品についても例外ではない (図4、5)。
材料に反し建築の造形的表現は様々である。造形が異なると、建築としてそれらは異質なものである。しかし一方でそのテクスチャーの共通性が持つ視覚的な印象の連続性は明確に都市の性格を形成する。都市がある一つのテクスチャーで覆われていることは特異なことではない。西洋の伝統的な都市では、石造建築の歴史がそのまま都市を形作っている。しかしこうした都市でも歴史の様々な時点でクラシックとモダンの葛藤がありそこに新たな緊張が発生する。特にモダニズム以降のドラスティックな変化においては、新たにつくられる建築は過去のものと良くも悪しくも大きなコンフリクトを発生させることになる。一方、ロスアンジェルスで重要なのは、モダン、コンテンポラリーも含めて、この種の仕上げが施されることで、個々の建築があるモードの中に追いやられ、様々の時代と様式の間におこるコンフリクトが和らぎ都市全体がこのモードの中に安定していると見える点である。
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