アメリカ美術の主流は本当はリアリズム
小林剛『アメリカンリアリズムの系譜―トマス・エイキンズからハイパーリアリズムまで』関西大学出版部2014を読み終えた。アメリカ美術と言えば戦後の抽象表現主義が前景化しがちだが、継続的に流れているのはリアリズムであると著者は言う。そこで思い出したのがUCLA留学時代のチャーズル・ジェンクスの講義‘Contemporary American Realism`である。時あたかもポストモダン最盛期であり、この授業の趣旨は抽象的モダニズムを否定して、具象的(リアリズム)ポストモダンを称揚することだった。
さて小林氏のリアリズムの切り取り方で最も面白かったのはロザリンソ・クラウスの「指標論」(アメリカ90年代アートはパースがいうところのインデックス的である)に掉さしながら、アメリカンリアリズム絵画がヨーロッパのそれとは異なりインデックス的な物として始まったという指摘である。
そもそもヨーロッパリアリズムを学んで生まれたアメリカンリアリズムであるがヨーロッパのそれが歴史や習慣を指し示すイコンとしての「類似性」を有しているのに対してアメリカンリアリズムのそれはそうした歴史を意図的に排除してインデックスとしての「事実生」のみに依拠しているのである。60年代以降(抽象表現主義が一段落した後)に復活してくるリアリズムがハイパーリアリズムと呼べるような写真以上に写真的な精緻でインデックス的なリアリズムとなってきたのはそもそもその発生においてインデックス性を胚胎していたからだと言うわけである。