10年前のカレーの味
10年以上も前のこと、日本橋に未だ高層ビルが建ち並ぶ前、M不動産に務めていた友人と千疋屋でカレーを食べることとなった。千疋屋とは高級果物屋だと思っていたがカレーも絶品だった。彼は高校の同級生で水泳部の主将を務め運動に長けていた。同じ主将をしていた僕とは運動仲間であるとともに、二人とも建築を志していたので将来のことなどを話し合う仲だった。結局彼は建築はやめて早稲田の政治経済学部に進み三井不動産に就職した。大学時代にはあまり会うこともなく過ごしたがその後僕が独立して第一園芸に造園の仕事を頼み、たまさかその友人が偉いさんとして出向していることを知り食事となったわけである。カレーを食べながら昔を懐かしみM不動産で働いているのは昔の建築への未練かと問うと、建築家に成るには才能がいるが自分にその才能があるかどうかは分からなかった。そこで、建築家を使う職に就いたのだと言っていた。そんな才能など考えたこともなかったよと言ったら、「そういうところが坂牛らしいんだよ」と言われた。そうかもしれない。いつも考える前に行動している方である。
今日とある用事があって久しぶりに日本橋に来て千疋屋で食事をした。10年前のカレーの味を思い出した。食後に建ち並ぶ高層ビルの一画でコーヒーを飲んだ。三井本館のコリント式柱頭が正面に見えるのに驚いた。彫りの深い立派なアーカンサスの葉に圧倒された。