目には旅をさせよ!!
ディビッド・スチュワート先生から先日いただいた長文のメールの最初の方に「ところで、シネマライズでやっているディアナ・ブリーランドのドキュメンタリー映画見たか?見逃すなよ!」と書いてあった。
ディアナ・ブリーランドとはパリ生まれでアメリカに渡り、50年台にハーバース・バザーでカリスマ編集者となり、60年代にヴォーグ編集長としてファッション界に君臨した女性である。80年代にヴォーグ編集長となったアナ・ウィンターがあの「プラダを着た悪魔」のモデルと噂されているが、この映画を見れば「うっそー!ディアナこそがあのプラダを着た悪魔のメリル・ストリープでしょう」と言いたくなる。部屋に入るなり秘書にコートをぶん投げ、モデルの顔をわしづかみして叫び、スタッフを全員呼びつけ矢継ぎ早に命令する。これはデイアナである。アナ・ウィンターはこれほど激烈な性格とは思えない。
さてこのディアナはとんでもない人だとつくづく思わせる。先ずその発想のユニークさに目を見張る。次にその発想を実現させる粘り強さに驚く。60年代のヴォーグを並べてみればそれに気が付くはずである。しかしそれも10年しか続かなかった。長持ちさせようとしたらあんな編集はできないだろう。最高のモデルを数多連れて世界の秘境まで行くのだから金がいくらあったって足りない。だから10年なのである。しかし無味乾燥な編集を数十年続けていくのに比べたらはるかに意味があった。ファッション誌を芸術の域に高められたのは彼女がいたからである。
この彼女の発想力はどこから来たのか。おそらくとんでもない好奇心からだと思う。実はこの映画を見た後にスチュワート先生にお礼と感想をメールしたらこの映画の英題を知っているかと問われた。もちろん知らないのだが、それは"The Eye Has to Travel",だそうだ。目は常に旅をして新しいものを発見しなければならないということなのだろう。われわれも同じだあなあと改めて思うところである。