ミースのガラスを杉本が撮った
杉本博司の『空間感』マガジンハウス2011は彼がスター建築家の作品を訪れその建築のエキスを掬い取った写真集である。もちろん写真以外に彼の攻防記も併置されている。リベスキンド、ミース、磯崎、ズントー、SANAA,、小川冶兵衛、ヌーヴェル、吉田五十八、ヘルツォーグ、安藤、谷口、ピアノ、西村伊作。そして最後に採点表まで付いている。採点表は写真が掲載されていないものも多く含まれ、星一つから五つまでで示されている。なかなか手厳しいその評価はさておき、さすが杉本という写真がいくつかあった。
その中でも一番美しいと思ったのはミースのニューナショナルギャラリーである。昨今、中の美術品の為にカーテン締め切り状態のこのガラス張り美術館をカーテン全開にして撮っている。それだけでも大変な苦労だろう。それに加えこのガラスに夕陽と町並みが写り込んだその瞬間が捉えられている。恐らく一般の建築写真でこんな瞬間を切り撮ったものは無いと思う。
昔GA素材空間の編集協力をした時に二川さんに言われた。ガラスの厚みを耐風圧で決めるようじゃ建築家じゃない。ガラスは素材としての美しさがある。その美しさで厚みは決めるものだと。ファンズワース邸に数回行って毎回朝から晩までいるとその表情の変化が分かるのだと教わった。そんな表情の機微はそう簡単に写真なんかで伝わるものじゃない。でもこの一枚はそれを伝えている。