坂倉の住宅
爽やかな秋晴れ。午後事務所で打ち合わせをしてから新橋で行われている坂倉順三展を覗く。とは言っても坂倉事務所の作品展ではなく、坂倉順三個人に焦点をあてた展覧会である。だから坂倉がコルビュジエのところで担当した住宅から始まり、当時の同僚であるシャルロット・ペリアンが日本で行った展覧会なども含まれている。そしてなんと言ってもメインテーマは坂倉の作った住宅である。坂倉の住宅と聞いてもイメージが湧かない。展覧会を見るまで坂倉が住宅をこんなに作っていたとは知らなかった。しかも切妻の住宅をである。カタログに藤森も記しているように坂倉の住宅はさほど有名ではない。これらを見て連想するのは前川国男の自邸である。あの骨太で堂々とした切妻住宅。同じコルビュジエの弟子だからまあさもありなんと言えばそうなのだが、その後の作風の違いはまだ顕著には顕れていない。しかしその住宅の質の高さは確かなものである。カタログの最初に篠原一男が坂倉に行ったインタビュー記事が再録されている。篠原も坂倉の住宅に興味を抱きその質の高さを認識してしただろうことを伺わせる。
新橋で夕飯をとって長野に向かう。車中稲葉振一郎『社会学入門』NHKブックス2009を飛ばし読む。モダニズム学問としての社会学を建築、アートのモダニズムと類比的に語る語り口を見てみたかった。なるほどモダニズムとは「自分では自由で自立しているつもりの人間精神をあらかじめ規定し限界づけている形式」を自覚する自意識であると著者はいう。つまりはメタレベルの探求、絵を描くのではなく、描き方を自覚する自意識。建築を設計するのではなく、設計方法を自覚する自意識がモダニズムだという。と同様に、社会を分析するのではなく、社会を規定している形式を分析しその時代(モダニズム)を知ることが社会学であると言う。それは著者自身言うように、つまるところ構造主義や社会構築主義的態度へと向かう。とは言えそれも社会学の一部である。こんなに広い領域を扱う学問だけに社会学とは何かとは一言では言えないようである。まあ当たり前だとは思うが。