野田裕示展
国立新美術館で野田裕示の個展が開かれている。ずーっと見たいと思っていた作家である。彼の作品は記憶の断片を蘇らせる力がある。絵を見ると人はなにがしか記憶を刺激されるのだが、例えばミケランジェロや、ルーベンスや昔の人の絵を見てもそんな絵の風景や人に僕は現実世界で出会ったことは無いわけでそうなると、彼らの絵を見ても記憶を深く刺激されることはない。それはどんなに立体的に透視図で描かれていても絵に見える。かといって日本人の同時代人が描いた写実画あるいはや写真はどこかで見たという記憶を生むかもしれないが、それはそれで過去の記憶のどこか一点にとどまる。
野田さんの絵は抽象絵画なのだが、キャンバスを重ね合わせたり、合板を張ったりして表面に微妙な襞や目地が作られその上に何重にもアクリル絵の具が塗り重ねられスクレープされ削り取られている。そのテクスチャーと色の重なりが現実のモノの汚れや風化を想起させる。抽象であるが現実のどこかの断片のように見えてくるのである。つまり記憶のどこか一点を刺激するのではなく記憶のどこかの複数の場所に立ち現われてくる。その重層的な刺激(あるいはこちらの記憶の蘇り)がとても脳ミソを刺激する。
久々にズーンとくる絵を見た。