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マザッチョ

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ブランカッチ礼拝堂のフレスコ画の部分だけだが岡崎乾二郎の『ルネサンス経験の条件』を再読してみた。岡崎氏が自らその発見に身震いしたと記してあるその発見はおよそ次のようなことである。このフレスコ画はコの字型平面の壁に2段に描かれ全部で12枚の絵で構成されている。これらの絵は3人の画家によって時期もずれながら完成する。この絵画はおよそルネサンスの巨匠と呼ばれる画家の多くが訪れ、学び、影響を受けたということになっている。岡崎はこの絵画がこれまでイコノロジカルに、あるいは3人の画家の担当部位について分析されてきたことには触れず、これらの絵の左右の4枚に注目する。そしてその4枚のうち左の上下2枚を重ね合わせ、右の上下2枚を重ね合わせる。更に左の上段と右の上段、左の下段と右の下段を重ね合わせる。重ね合わせた図像が単独では持ち得なかった効果と意味について論じるのである。
人間の透視図的な視線が左右の像を自らの表象において重ね合わせるのか否かそれは確たる根拠はないのだがこうした読解の可能性を岡崎は受容の側からではなく、制作の側から分析する。その根拠として岡崎はマザッチョがフレスコ画を描くときに、原寸大の下図を描きそれを壁面にピンで落として込んでいたという事実に求めるのである。その下図が逆側を描いた人間の参考図となっていたのではなかろうかというのが岡崎の読解(推理)である。確かに時期も人間もずれて完成した1つのまとまった壁画において、全体の統一性を3人の画家が求めていたであろうことは想像に難くない。そう考えれば彼の読みが(その真偽は別にしても)にわかにスリリングなものに思えてくる。
やはり本物を見てみないことにはこの手の読解は全くといっていいほど理解できないことである。

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