プラド美術館展でヴェルフリンを復習しよう
Tiziano, Vecellio サロメ 1555
Rubens, Peter Paul 運命 1636-38頃
Poussin, Nicolas廃墟のある風景 1633―35頃
大学院の授業でもゼミでも登場するのがヴェルフリンの『美術史の基礎概念』いうまでもなく、ここでは古典とバロックの空間概念の差を5つの視点で解き明かす。①線的と絵画的、②平面と深奥、③構築的と非構築的、④多数的統一性と単一的統一性、⑤明瞭製と不明瞭性。さてこの二項対立図式はギリシアの昔から、類似した意味合いを含みながら存在していた。つまりアリストテレスのエイドス(形相)とヒューレ(質料)に始まる二項対立である。アリストテレスのエイドスはラテン語でフォルマとなりエイドス以外にモルフェ(形式)の意味を大きく担う。そしてこのフォルマとマテリアは絵画の世界では「線」と「色」の二項図式となるが、ルネサンスでは線が優勢となる。あのヴァザーリは芸術家として、画家、彫刻家、建築家を三者同等に並べた最初の人らしいが、この三人に共通する技を彼はarti del disegnoと呼んだつまりデッサンの術=線描の術である。つまり線が尊ばれたということだ。ところがその後、線に対して、色を重視する流れができる。それがヴェネツィア派と呼ばれる画家たちでありその流れがバロックにつながり、冒頭記したヴェルフリンの分析を生むのである。
なんてことを授業でやっていながら、実は僕はその本物を意識してみたことは無かった。もちろん、線派のラファエロ、プッサン、デューラー、色派のティッチアーノ、リュベンス、ベラスケス、レンブラントなんてどこかで見ているかもしれない。でもこうしたことを意識してみたことはない。
そこで今日から始まったプラド美術館展に行ってきた。ティッチアーノ、リュベンス、ベラスケス、プッサン、だけでも10点くらいあったと思う。ヴェルフリンをおさらいしたい人には絶好の展覧会である。僕もヴェルフリン片手にじっくりとディテールを見た。初日の9時に飛び込んだのに既にすごい人。でもまあちょっと待てばじっくり見られる。そこでちょっと気がついた。色派と言われるティッチアーノやリュベンスの輪郭部分をじっと見ていると、比較的暗めのバックに白い肌が浮き上がるのだが、その輪郭を何故線的と言わないのか? そう思いながらもう少しじっと見る。すると肌の色は、肌とバックの境界付近で限りなく暗く落ちていくのである。そしてバックに同化するのである。その時完全に同化すると境界が余りに不明瞭になるので苦肉の策でバックにむしろ少し白をかけて明るくしているのである。つまり輪郭線を描くのではなく、バックを対象と異なる色にすることで対象を浮き立たせるように描いていることが分かるのである。なるほど、これなら確かに線的とはいいにくい。本物をじっと見ていたらやっとヴェルフリンの気持ちが理解できた。やはりこの手のものはなるべく本物をみないとなあと感じたのであった。
コメント
snow dropさん始めまして、コメントありがとうございます。ブログ拝見しました。素敵なページですね。
建築が専門なせいかつい最近までは抽象ものしか興味ありませんでしたが、具象も気にならなくなりました。抽象のように見ているようです。
投稿者: Anonymous | 2006年04月04日 14:39
はじめまして、こんにちは。
ヴェルフリンの『美術史の基礎概念』を懐かしく思い出しながら、拝読させていただきました。
そうですね。本当に、おさらいにぴったりの展覧会でしたね。
私も学生時代に戻った気分で、とても楽しい時間を過すことができました。
また、今回の展覧会の出品作品の中で、私が特に気になった作品の画像を、偶然こちらで再び観ることができ、思わず嬉しくなってしまいました。
また、お邪魔させていただきたく、どうぞ、よろしくお願いいたします。
投稿者: snow_drop | 2006年04月04日 14:30