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モード建築

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昨日の東京アートスピークでのレクチャーでお話したことだが、バルトの『モードの体系』ではある年のあるフランスのファッション雑誌の言説を取り出してきて二つのグループに分けたのである。Aグループは、「コットン」は「夏」とか「海辺」は「ボーダーシャツ」というような文章で「服」=「世界」という図式なのである。そしてこの世界とは所謂TPOのこと。一方Bグループとは「短めのボレロ」とか「白い麻」なんていう風に「世界」の無い文章で、これは暗黙の内にこれらが今年のモードであることを言っているのである。
さてこの言説分析は60年代に行われているのだが、21世紀にこれをやるとどうなるか、我が家でかみさんとかみさんのファッション雑誌を2冊ほど見てみると、このAグループの文章が見つからないのである。何故?かみさんの推測は、現代のモードはTPOが無い。シルクのドレスにジーンズのジャケットを羽織ったりする。つまりTPOとファッションの中にある暗黙のルールを壊すルールが生まれているからだというのである。なるほど。
さてそれで建築についてこの言説分析をやるとどうなるか??カーサブルータスを少し眺めてみる。やはりAにあたる文章は見当たらないのである。「自然と闘わない」とか「閉じて開く」とか.。だからそれが何なの?にあたる「世界」の部分が無いのである。
それについて昨日のレクチャーでは「建築にはTPOは作れないからね」なんて適当なことを言ったけれど本当だろうか?建築だって例えば部屋によってTPOがあったりする。ちょっと昔のヨーロッパの家にはブレックファーストルームとかダンスルームとかあった。あるいはもっと前ならl、スタイルの格式があった。という風にTPO=何時どういう風に何の為に=(目的)、が明快だったのである。ところがそれは後期モダニズムのユニバーサルスペースによって御破算となり、コルハースによって再度90年代に妙な復活を見せているために現在ことさらスペースのTPOは語られない。しかしちょっと前の言説を探せばきっと、「食事室は朝の光で満ちる、壁紙は白が旬」とか「ちょっとゴージャスな居間の床はペルシャ柄気分はもう東方。心は躍る」なんていう言説があったかもしれない。つまりバルトが分析した頃の建築雑誌を引っ張り出せばやはりAグループ、Bグループの双方が見つかるのではないかと思うのである。
まあ逆に言えば今時の建築は、世界とはあまり関係なく比較的直感的にモードかモードでないかという単純な世界にあるということなのかもしれない。

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コメント

こちらこそ、勝手にお邪魔したのに即レスいただきありがとうございます。
上記に関連するかどうか、、ミースはまた「アイディアのみが普遍的に『伝播』しうる」と、レムはまた「ブランディングなんて言ってないよ。オレは」とも言ってましたね。確実に「単なる建物」と「建築」の違いがわからなくなっている(作家の作為が不問にされる)状況はあるかと思いますが、しかし、作品の匿名性をみずから標榜しているわけではない、と思います。
ところで、お世辞ではなく、こちらのウェブは内容がすさまじく充実で、そんじょそこらの建築専門誌より俄然面白いので良く覗かせていただいてます。最近では「社会のシステム」と「懐疑」のお話と、アスプルンドについてとても興味深く読ませていただきました。
またの機会お話直接拝聴できると嬉しいです。

おー早速のコメントありがとう。コラムはいつも書きっ放しなのでコメントはなにより嬉しい。
そうですね正確に書かないとね。彼は「建築とその時代」1924の中で「今日我々は普遍的性質とは何かという問題にかかわっている・・・・・」と言っているだけだ。このときの普遍性といういのも空間の自由度という意味ではなく、作者の匿名性のことだからね。コールハースが注目しているのもユニバーサリティではなくジェネリックですね。そうそう正確に書かないと。
ご指摘ありがとう。

お邪魔します。昨年リーテム拝見させていただいて以来です。なるほど↑。面白い分析ですね。僕がヨーロッパに居たときもuniversality after the flexibilityみたいに、世界がない、というかコンテクストのフレーム設定・定義づけが無い状況での○○、というような議論に移って来てた気がします。バルトも『エッフェル塔』ではなく『モード・・』が再読されてましたし。ただ、ミースの場合は、よく言われる「普遍性」も、アメリカの論客(もちろんP・Jのことですが)によって「インターナショナル・スタイル」などという自国に都合の良い知的システムに還元されたゆえの呼称、というのがあると思います。ミース自身はユニバーサル・スペースなんて言ってませんしね。

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