きもかわ
この写真はアメリカの写真家Diane Arbusによる "Identical twins, Roselle, N.J.1967"というタイトルのものである。一瞬薬品の副作用などによる奇形かと錯覚するような双子の写真である。僕の大学でのデザイン論「建築のモノサシ」における第二講「人間と妖怪」のイントロのイメージとしてホームページに貼っている。この講義は簡単に言うと。建築は古代ヴィトルヴィウスの分析による人間比例論が建築原理の王道を成し、其処から派生する均斉という概念は近代を通して、つまりルネサンスからコルビュジェ(モデュロール)へと影響力を持ってきたことを示す。そしてそれを全体バランスの取れた規範という意味で、人間と呼ぶ。一方そうした全体バランスに異議を唱え、原広司のように部分から考える建築家もおり、そうした部分建築を人間の部分肥大(口裂け女とかろくろ首など)からの類比で妖怪と呼び、その2極軸を示し、その軸をもとに現代を分析する。現代は人間から妖怪へと移行、あるいはまたその間を振幅し、人間的妖怪というようなものも登場する。さてそこではこの妖怪は部分肥大で規範としてのバランスを欠きある種の奇形性を示すのだが、何故現代人がそうした奇形を好むのかあまり深く考えていなかった。そしたら、昨日買った四方田犬彦の『かわいい論』ちくま新書2006がそのあたりを面白く解説してくれている。この本、説明するまでも無くいまや日本語の中で特権的な意味合いを持つに至ったかわいいという語の分析を歴史的文献にあたり、大学生にアンケートして、更にその語の反対語を確認し、それらを踏まえ、かわいいの重要な語義としてのミニアチュアに言及し、女性誌を調査し、秋葉原を調査し、世界的な影響にまで話しは及ぶ。さてその検討の中での一つの結論は、「かわいい」の反対語は意外かもしれないが、類語である「美しい」であり、逆に反対語であろう「醜い」=「きもい」は隣り合う語であり「きもい」と「かわいい」が合成された」「きもかわ」という語が「かわいい」を知るキーであると言う。さてこのきもかわの例とは学生アンケートではアンガールズやしりあがり寿の漫画なのだが、そこに四方田は冒頭のアーバスの写真を「きもかわ」の例として加えこう述べる「双生児の少女たちは『無垢』や『親和力』といった観念を剥ぎ取られ瓜二つの人間がこの世にいる薄気味悪さの証左として提示される・・・・・・・・・・今にして思えば写真家としてのアーバスの真骨頂とは『かわいい』とは本質的に『きもかわ』であり一皮剥がせばグロテスクに過ぎないことを証明したことであった」
なるほどそう考えると元祖妖怪建築である原のヤマトインターナショナルとアンガールズはそのグロテスクなあり方において隣り合っていそうであり、そしてこのグロテスクがアンガールズの場合かわいいに転んだということである。さてヤマトはかわいいに転んでいるか?転ぶ必要があるか???
コメント
ちょうどこないだTVの特集で、日本語の「かわいい」という言葉が世界共通語に!といった特集がなされていました。これによると、いまや「かわいい」という言葉は今世界で日本文化の特徴として捉えられている”キッチュさ?”を端的にあらわす語として、「karaoke」や「sushi」などのように、”Kawaii”がそのままで通用するようなのです。たとえばフランスでは”Kawaii”というタイトルのTV番組があって、そこでは、番組の出演者が”kawaii!”と連呼しながら今流行のポップでキッチュなものの紹介をしているといった感じです。
でそういった話の流れの一方、私が興味深かったのは同じ番組で女子高生のグループに街中で何をかわいいと思うかを調査していく中で、本当に様々なものに彼女たちは「〇〇かわいい~♪」を連発していく(果ては、市場のおばちゃんの売っていたわかめにまで・・)現象。
その中にはこの「きもかわ」も含まれるわけですが・・
結局、彼女たちは、「共感」というものを得る、最短手段として「かわいい」という言葉を使ってるらしいのです。
「へんじゃなぁい~」というのではなく「へんかわ~」ということで共感が得やすいらしいのです。
私は「かわいい」という言葉が本来の意味からすごく広範囲に拡大解釈され、いまとなっては「あいまい」なもの一般をオブラートのようにくるんでしまう言葉となってるのではないかなぁ~と思うのですが、いかがでしょう?
投稿者: ci | 2006年01月23日 23:09