10+1アンケート2010を振り返る

fig.1
煉瓦とコンクリートスクリーンのファサードが印象的な長野市民会館



島キッチンの優雅な屋根と構造

U 長野市民会館の解体
さてこうした問題と関連する出来事として長野市民会館の解体について紹介したい。 現在地方都市のいたるところで起こってきた役所の耐震性能の不足とそれに対する対処がここ長野でも問題になっている。役所建築の老朽化に対して、行政の合併を支援する合併特例債という国からの有利な借金が可能となり、合併行政は役所手入れのチャンスを獲得している(長野市もその一つである)。そんな中、1)耐震補強、2)中古大型建築(大規模小売店舗や工場など)の再利用、3)新築、という選択肢を行政は選択することになる。工場をリニューアルした山梨市役所はそのデザインも含めて2)の優れた事例であろう。長野では県庁は耐震補強を行い市役所は新築する提案がなされた。そしてこの新築に伴い市役所脇に建っている老朽化した宮本忠長の名作長野市民会館を解体しその跡地を市役所新築の種地とする案が浮上し市民の間で物議を醸している。
役所の説明は、市役所を耐震補強して使用してもいずれ建て替えなければならない。そのことを考えるなら現在使える有利な合併特例債を使うべきでそれが市民負担を最小に抑えるというものである。もちろんこの説明は一貫して合理的ではあるが、そのために壊すことになる市民会館の文化的価値については一顧だにされていないところが問題である。つまり手入れして更新するという考え方が欠如している。 長野では善光寺を含めた門前町の文化的価値については市民も深い理解を示すのだが、モダニズム建築については使い捨て感覚が強い。このことは恐らく日本全国同様であり、今後日本のモダニズム建築の価値を継承していくうえでは禍根を残すものになるのではないかと危惧するできごとである。

V arts chiyoda
さてそういう意味でモダニズム建築の手入れ更新を考えていく良い事例として最近身近に現れちょくちょく覗きに行く場所となったarts chiyoda(2010年2月オープン)を挙げておこう。この施設は千代田区の名門練成中学校をアートセンターに作り替えたお手入れ建築である。運動場は区民に開かれた前庭と化し親近感が湧く。加えて運営プログラムも秀逸であり区民の憩いの場としての本来のアートの在り方を感じる場となっている。アートは身近にあってなんぼのものであり、こうした使われ方は好ましい。

W 島キッチン
またモダニズムのお手入れではないが、お手入れ的増築(テンポラリーなので厳密には増築とは言えないが)として昨年とても感銘を受けた建築は瀬戸内芸術祭 において豊島に作られた「島キッチン」である。民家の周囲に庇を付けただけの簡易レストランである。とはいえ、設計者の安倍さんの優雅なデザインと構造の 金田さんによるその場所で手に入る構造部材のコラボレーションは考え方もデザインもすべてが合点のいく素敵な建築であった。

10+1webサイト2011年1月号所収