一年間の重要な出来事はいくつかのフェーズでパラレルに起こっており、それらを細かに関連付けながら記述することは不可能に近い。ここでできることはそうした問題系の一断面を切り取ることに過ぎない。そこで自分の活動の片足を置く信州における一連の出来事を中心にそこから派生する興味について記してみたい。
T antipodas 10
先ずは手前みそだがアルゼンチンの建築家を信州大学に招いて行ったワークショップantipodas10について紹介したい。このワークショップはヴィニョーリを輩出したブエノスアイレス大学で教える建築家ロベルト・ブスネリを招いて行われた。ロベルト氏の基調講演、地元建築家を交えたシンポジウム、学生に対する短期課題とその講評、そしてアルゼンチン建築の展覧会という4つのイベントを通して「都市のコンテクストを考える」試みであった。
このテーマはもちろん長野とブエノスアイレスに固有のテーマではない。いやむしろ逆に今や世界のいかなる都市においても避けて通れないテーマと言えるだろう。しかし長野は特に歴史街区との関係、あるいは自然との関係が建築設計に強く影響する場であり、世界の都市とこの問題をどのように共有できるか考えてみたかった。
その結果、都市のコンテクストのとらえ方においてブエノスアイレスと長野という距離の差を超え、ロベルト氏と我々日本の建築家、歴史家が同様の認識にあることを強く感じるものだった。その一つは建築とは常に手入れして更新されていくものであること(解体新築ではなく)。モダニズム建築は更新されていくことを原理的に拒否する地点から設計されているものであり、そうした考えの反省の下に次世代の建築を考えねばならないこと。などであった。
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