コンテクスト、歴史、記憶
拙訳『言葉と建築』の第二部には18のモダニズム概念が並んでいるがよく見ると3つの言葉がよく似ている。それらは「コンテクスト」「歴史」「記憶」である。この言葉の意味の差はこの本の中では、コンテクストは形の中、歴史は文献の中、記憶は心の中に宿るものである。これらの中で何がデザインに有効かと考えるなら一番てっとり早くてわかりやすいのは形に宿るコンテクストである。モダニズムは手っ取り早くわかりやすいことを大事にしたので彼らはコンテクスチュアリズムを生み出したのである。よくコンテクチュアリズムはモダニズムに対立する概念だと言われるが、立地環境を気にしないという面では確かにモダニズムはアンチコンテスチュアリズムだが、フォルマリズムという点ではコンテクスチュアリズムは上記三つの概念の中では最もモダニスティックなのである。そして次に使いやすいのは歴史である。なぜならこれもすでに文献化されて認知されているからである。認知されているものは使いやすい。よって記憶が最も扱いにくい。こんなあやふやなものを根拠に建築を作るのは危険極まりない。だから滅多にこんなものを使って建築を作る人はいない。しかしそれだからこそ成功した時の効果はもっとも大きい。記憶を頼りに作った建築を探してみればいい。実に奥が深く感動的である。しかしそれは説得できるものではない。できてみて初めてわかるというようなものである。