篠野氏の次の仕事は小説家
3月末で東工大を退職される篠野志郎教授からアルメニア研究の総集編の如き本を頂いた。タイトルはHistoric Christian and Related Islamic Monuments in Eastern Anatolia and Syria from the Fifth to Fifteenth Centuries A.D.(彩流社)と長い。日本語タイトルは東アナトリア・シリアの歴史建築となっている。しかし中を見るとアルメニアもグルジアも含んでいる。1998年から17年に渡り、この地域の建物を見て回り、単に実測を重ね歴史的検討を行うのみならず、崩壊の危機にある建物については構造検討まで行った。そうした功績を讃えられて彼の地の勲章を授与されたと聞く。
この書に示される調査は結果的に氏のライフワークとなり、ライフワークは様々な可能性をあきらめる中で成立していると氏は語る。まったくそうだと思う一方で、さまざまあきらめたモノの中にこれだけ素晴らしい光景や建築に出会えること以上の可能性があったのだろうかと問うてみたくなる。私だったら諦めに諦めがつく。
さてしかし、氏はまだ65であり80まで生きるとしてもこの調査を行った年月くらいは残っているのである。先日見た氏の肉体(裸を見たわけではないが)からすれば同程度の調査を行う余力が残されていそうである。しかし私としてはもう研究には終止符を打って、実は氏が諦めていた小説業に専念して欲しいと思っている。群像新人賞を受賞した30年前に戻り今はもはや行けぬ地となったシリアを舞台にラブロマンスを描き、爺芥川賞作家になってあとに続く凡人たちの目標となって欲しいと願う次第である。