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太宰治のいたずら


だいぶ前に数人の友人と酒を飲んだ時に、そのうちの一人が井伏鱒二のKOIがいいと言っていた。KOIってロマンス?と聞くとカープと言われた。酔っていたせいもあってその話はすぐ次の話題に切り替わった。なんとなくそういう言葉は気になるもので帰宅後すぐにアマゾンで調べるのだが、鯉というタイトルの小説はなく還暦の鯉という短編集があったので数百円で中古を買った。しばらく開けてもいなかったが、今日寝転がって読んでいた。太宰治が締切間際の井伏を手伝った話が愉快だ。太宰は井伏の口述筆記をし、その時の感想を井伏全集の後記に書いた。それは一種の褒め殺しだった。しかも口述筆記の中には折口の文章の流用があり、太宰はそれを知っていながらその文章をとりあげて、「天才を実感して戦慄した」と書いたそうだ。なんとも皮肉っぽい。しかしそれは当事者の二人にしかわからないというところが太宰の何とも言えぬ遊び心だし、それをしゃべってしまう井伏もあけっぴろげでいい。

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