「生まれてきて良かった」
一昨日の竣工式で学園の方からこんな話を聞いた。園では既に子供たちが引っ越しを完了させていて学校に通い始めている。新しい園舎で子供たちは大喜び。今まで大暴れして喧嘩ばかりしていた子供たちがいたって静かに落ち着いて暮らし始めた。皆が新しい建物を大事に使おうと蹴っ飛ばしたり殴ったりはしなくなった。そしてちょっと泣ける話。札付きの悪で自傷行為に走り物を壊し余り話さない女子高校生がぽつりと言った「生まれて来て良かった」って。
そんな話を聞いて僕はじーんとなり、一体何が子供たちの心を安寧にしているのだろうか?と考えた。最初の内はきれいで広い場所に移れたから。自分たちが社会に大事にされているという安心感がここから芽生えたのだろうと思った。でもそれなら彼らを新品のマンションに住まわせたら同じ効果があるのだろうか?と考えてみた。きっとそれほど上手くいかないのではないかと思った。
では何が子供心に訴えたのだろうか?きっと丹念に丹念に子供たちの生活を考えて考え抜かれたデザインがそこにあるからだと思った。既成の何かを「さあ使え」というのではなく。あなたたちのことを考えあなたたちのために作ったのだよという苦労の跡を感じ取れるからなのではないかと考えた。
建築は人の気持ちを変えることなどできないと半ば諦観していたのだが、そんな心を動かされ少し熱くなる一言だった。