二人のローマ法王の回勅
事務所での打ち合わせを終えて夕方のアサマに乗り宇沢弘文『社会的共通資本』岩波新書2000を読む。ゆたかな社会とは何かを考える書である。その冒頭は経済システムから始まるのだが、それを考える上で著者は二人のローマ法王の言葉を引用する。最初は1891年に出されたレオ十三世の回勅である。それは「レールム・ノバルム」(新しきこと)と題され19世紀末のヨーロッパが直面した問題を「資本主義の弊害と社会主義の幻想」と特徴づけた。二つ目はそれから100年後1991年ヨハネ・パウロ2世による「新しいレールム・ノバルム」と題された回勅である。それは「社会主義の弊害と資本主義の幻想」をテーマとしたものだった。
19世紀後半資本主義国はマルクスの予言通り多く社会主義に転じるのだが法王レオはそこでの移行へ警鐘を鳴らした。そして100年後マルクスの予言を逆行する現象(社会主義の瓦解)をヨハネは予言するだけではなくレオの言葉を流用しながら再度逆の警鐘を鳴らすわけである。その後社会主義国が相次いで崩壊し一方資本主義もリーマンショックを始めとする問題に直面する。余りに見事なこの二つの予言に溜息が出た。
これに関連する話だが、昨晩帰宅すると父親の新しい著書が届いていた、タイトルは『日本はどこへ向かうか』である。本を開いてもいないのだが、内容は現在の世界資本主義に対する警告であろうことは想像に難くない。宇沢氏の描く豊かな社会と親父の描く日本の向かう先がどのように重なってくるのか分からないが80を超える二人の考え耳を傾けてみたい。