社会学の方法論で建築を分析する可能性
稲葉振一郎の『社会学入門』2009を読み返してみると、社会科学とは政策科学であると書かれている。その意味は経済学なら経済発展に、社会学なら社会問題解決に、つまり政策上必要な学問ということである。
では建築に関わる学問は何に寄与するのだろうか?構造設備は社会科学同様に政策科学に近い。構造基準だとかエコ基準だとかは国策なのだから。しかるに計画、歴史、意匠などはどうだろうか?計画は使用者の使い勝手に寄与するものであり、歴史は過去の解明である。では意匠とは何か?ちょっと前まで意匠論とは寄与する何かが無い学問でよいと思っていた。
谷川渥さんが美学と言う学問はその学問によって誰かを喜ばせたり、誰かに貢献するものではない。と言っていたのを聞いて意匠論もそれでよいと思っていた。のだが少し方針を変えて、もう少し何かの役に立ってもいいと思い始めた。
そこで社会学を参考にすべく、稲葉さんの本を振り返り、古典と言われるジンメル(Simmel, G)清水幾太郎訳『社会学の根本問題』岩波文庫(1917)1979を読んでみた。薄い本で読みやすい。その中に社会学が社会を対象化する時の二つのポイントがある。一つは社会とは内容と形式に区別できること、ふたつめは社会とは個人間の相互作用のこと。
この二つのポイントはほぼ1世紀後に書かれた稲葉さんの本にしっかり受け継がれている。曰く社会学とは、社会の複数の現象間の因果関係を説明する仮説理論を作り、それを量的調査、歴史研究、ケーススタディのいずれかを用いて立証すること。立証に際し分析対象は社会の素材(内容)であり、目的はそこから個人を集合的に社会たらしめているルール(形式)を炙り出すことだと言う。
ではこうした社会学の構成を建築の意匠に適用するとどうなるか?そのためには先ず建築や都市が生み出している何らかの「結果」が必要である。それはこの場合善悪の価値づけられた状況かもしれないし、単なる特徴程度の感覚的な属性かもしれない。例えばある建築(都市、街路)の固有の感覚的属性をアンケート調査などで言語化してもいいかもしれない。次にそうした感覚を生み出していると思われるルール(形式)を炙り出す。その結果二つの因果関係を説明する仮説理論が生み出され、最期にそれらを立証するわけである。
建築現象と社会現象は気をつけないと似てるところもあれば異なるところもあるのでそう簡単に共通の方法論で解明できるものではない。しかし考え方の骨格を作る上では参考になるところが多い。