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大学教授と言う仕事

午前中早稲田演習。最近早稲田に行く楽しみに終わった後の「あゆみbooks」が加わった。今日も学生の楽しい発表を聞き終えて「あゆみbooks」へ向かう。『大学教授という仕事』(水曜社2010)という本が目にとまった。杉原厚吉さんという元東大教授がお書きになっている。誰向きに書かれているかと言うとこれから大学で職を探そうとしている人である。でも既に大学に職を持つ僕も興味深い。
というのも大学ってところは他の人が何しているんだか全く分からない場所だからである。企業というところは上意下達社会だから誰が何をするべきかが決まっている。ある方の部署とポジションを聞けばこの方が何をしているか、しなければならないかは想像に難くない。しかし大学は違う。もう5年もたつがやはり誰が何をしているのか想像の域を出ない。というわけで昼を食いながら飛ばし読みしたら、ああ想像したこととさほど変わらないということが分かった。なんだ、なんの発見も無いのかよと言われそうだが、想像した通りだと言うことに確信が持てたことの意味は大きい。まあ一言で言えば、大学の先生とはせっせと論文を書き学会で認められ、認められるような論文を学生と共に書くことで学生を教育し、そして余った時間で本を書いたり、講演をしたりして研究成果を社会に還元するということだ。あたりまえでしょう。と言いたくなるのだが僕ら建築意匠の先生というのは論文を作品に置き替えて考えないといけない。もちろん意匠の先生でも論文を書き作品も作る有能な方たちも少なくない。しかし多くは作品にウエイトを置いている。僕もそうである。
さてそうなると建築意匠というこの稀有な専門を持つ教師の「作品」というものは大学の中でどの様に評価されるべきなのか?僕が信大に赴任した当時は工学部長を含めて喧々諤々の議論だったそうだ。つまり論文だってただ書けばいいと言うものではなく学会の査読付き論文誌(所謂黄表紙という奴だ)に掲載されてなんぼのものである。それに相当する作品とは何なのかを決めなければならないのであった。信大に来た時に比較的作品に理解ある先生からも「ただ設計して竣工してもダメですよ。だってそれが坂牛さんの仕事かどうか分からないし、いいか悪いか私には分かりませんから」と言われた。ではどうしたらよいのでしょうか?誰かの評価が付いてないとだめですというわけだ。一番いいのは学会作品賞、選奨、選集である。もちろんコンペやその他の賞もいいが、大学は学会に弱い。JIAはどうかというと「あれは民間団体でしょう?」ってな具合に冷たい。「僕が作ったことを証明する意味では雑誌に掲載されるというのはどうでしょうか?」「雑誌ってなんですか?」「例えば『新建築』とか、外国の雑誌とか?」「それって単なる商業誌でしょう」とこれも冷たい。大学の先生は学会が命である。
では一応評価された作品一つと言うものと論文一本と同じ評価なのだろうか?と思っていたら、先日学会でお会いした村上徹さんが言っていた。論文は勝手に書けるけれど作品はクライアントがいるのだからそう簡単に自分の思い通りにはできない。その意味で選集掲載は論文1.5本分くらいの価値がある。選奨なら3本分(と言ったような気がするが)とおっしゃっていて元気が出た。こういうのはそれぞれの大学の内規とかで決まっているのだろう。
と言うわけで作ったものはなるべく学会に応募してきたのだが、今年からこの学会選奨の審査委員を仰せつかった。これがどういうことかと言うと、この賞への応募が許されなくなるのである。審査員なのだから仕方ないとも言えるが、自分の審査には票を投じなければいいだけであり、応募を禁じるとは何事か。それって他の先生の立場なら論文の審査員だから論文の応募を禁じると言われるようなものではないか!!!(もちろん査読委員の先生だって論文投稿の自由はある)。だから僕は審査員をかたくなに断ったのだが、先輩から有無を言わさず言い渡された厳しいなあ、任期中は業績ゼロだ、、トホホ。そんなことを思いながら事務所に戻るとナカジからメール。「リーテム中国工場がinternational architecture award2010(THE CHICAGO AHENAEUM Museum of Architecture and Designの主催)に入ったみたいですよ」「おお神は見捨てていなかった!!」添付のpdfを開けると審査結果が入っていた。審査委員は公表されていなかったが、今年はリゴレッタがいた。懐かしい。UCLA時代の先生だ。100人くらいの受賞(それこそ世界版学会選集のようなもの)。FOA、モルフォシス、坂茂、スノヘッタ、スティーブンホール、谷尻さん、手塚さん、岡田さん、なんて言う人たちも選ばれていた。作っただけでは業績にならない大学における意匠の先生の立場としてはなんとかやったことを無駄にせずに済んだほっとした。

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