« 初日は地獄 | メイン | 擬洋風建築のリノベーション »

カート

7時半のアサマに乗ると9時に東京駅に着く。そして9時に丸善が開く。朝の誰もいない巨大本屋は図書館のようで気持ちが良い。丸善にはショッピングカートがあるので重い荷物を載せて暑いコートも脱いで身軽な姿で本を選べる。ここに来るとだいたい歩く経路は決まっている。先ず4階の建築の洋書に行く。今日は雑誌frameの全号のトップページだけを集めた本を発見。これはインテリアの流行が読み取れて面白い。カートに放り込む。sensual architectureという本を発見。ゼミで建築のsexualityを考えているのでタイムリーな本。カートへ。そしてアートの洋書へ。今日は何もない。次に3階にエスカレーターで下りると左横が写真。小林伸一郎の『最終工場』なる写真集がある。日本の工場の廃墟。なかなかいい。工場は形の宝庫である。カートへ。そして横の美術書のコーナーへ。河本真理『切断の時代―20世紀におけるコラージュの美学と歴史』が面白そう。こう言うとき内容もさることながら、新聞評につい惑わされる。カートへ。その隣に三浦篤の『近代芸術家の表象―マネ、ファンタン=ラトゥールと1860年代のフランス絵画』があり惹かれるがやはりどうもフランス絵画のこのあたりにはのめりこめそうにないのでやめる。美術を通り過ぎると社会学が現れる。ここでレッシングの新訳書を手に取る。訳者は山形浩生。サラリーマンやりながら多量の翻訳をする方である。歩く翻訳機だなこの人は。レッシングはおいて違う書を数冊カートへ放り込む。そこから折り返すと思想系。余り頭から湯気が昇りそうも無い本をカートへ数冊。そしてエスカレーターの方へ戻り、新書のあたりへ。竹内薫の『もしもあなたが猫だったら』を含め4冊くらいお気軽本をカートへ。疲れた時に読む本である。そして芸術と逆側にある建築のところへ。いつもは疲れて建築のところに行き着かないのだが、今日は来れた。建築写真の新しい本が出ていた。カートへ。植田実の新刊がある。それも分厚く字もたっぷり。なんと出版社はみすず。タイトルは『都市住宅クロニクル 』上下2巻である。面白そう。これは日本の現代住宅史として価値ある本になるでしょう。その横に私を建築に導いた富田玲子さんの新刊がやはりみすずからでているではないか。タイトルは『小さな建築 』。像設計集団の創始者富田さんの穏和な心が伝わるような本である。などなど全部で17冊。ちょっと買いすぎた。これはカートのせいである。スーパーにカートを使うことを考案した人間は賢い。スーパーと同じ原理である。もし暑いコートを着て重い鞄を肩からぶら下げた状態では絶対こんなに買わない。
ところでその後その重いカートを押して支払いのレジに行った。配送を頼むためにレジの女性と会話したら、僕の言っているることが余り聞こえないようだった。その上発音がおかしい。すると「私は耳が聞こえにくいのです」とたどたどしい言葉で話す。耳には補聴器がついているのが見えた。僕は「書きましょうか?」と言うと「大丈夫。大きい声でお願いします」とまた、たどたどしく言った。配送の手続きにはとても時間がかかったのだが、こう言う人が頑張って働いているのを見ると僕はなぜかとても胸が熱くなって嬉しくなるのである。帰りがけに「頑張ってね」と声をかけようとしていたら僕の本を持って配送の処理をするために姿を消してしまった。

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://ofda.jp/lab/mt/mt-tb.cgi/3498

コメントを投稿