アンビバレンシー
エンリック論文の仮説としてユニークなところは篠原一男が一般に言われる前期後期の二つの性格(前期(A):秩序、抽象vs後期(B):秩序破壊、野生)が初期から同居しておりそれを調停する中でどちらかが強く出てきた結果として4つの様式を捉えたところにある。その仮説を裏付ける例として彼は白の家と地の家が同時に作られたにもかかわらず白の家は秩序、抽象の系(A)にあり地の家が無秩序、野生の系(B)にあることを例示する。そして(A)の系は第二の様式である亀裂の空間へ至りそこで終わる。一方(B)の系は第三の様式である野生、裸系の空間を通り第四の様式へとつながるのである。
このように二つの性格が同居する対象として建築家を捉えたのはチャールズ・ジェンクスがル・コルビュジエをアポロとデュオニソスと捉えてその初期のラショードフォンのデザインを説明したように前例のあることである。前例があるからといってエンリックの仮説の価値が減じられるわけではないが、人間の性格として二重であること特異なことではなくむしろ自然であると言えるだろう。
建築家を含めて表現者は表現の一貫性を貫きたく一つの性格(A)に固執するが、往往にしてそれに反する性格(B)が無意識の中に隠れており、時としてそれが噴出するのが常ではなかろうか?様々な表現者にこの考えを適用して分析したわけではないので推量の域を出ないがそれほど間違っているとは思わない。