篠野教授最終講義のタイトルが素晴らしい「我が悲しき論文指導失敗の思い出」
東工大の篠野先生の最終講義を聞きにすずかけ台にやってきた。篠野さんの部屋には以前一度拙著『建築の規則』ゼミをさせていただきに伺ったことがある。このキャンパスは山あり谷ありの中にあるのでアップダウンが激しい。3時の開始に遅れるかと思ったがぎりぎり滑り込む。講義タイトルが振るっている。「我が悲しき論文指導失敗の思い出」である。これはガルシア・マルケスの本のタイトルを文字ったものだそうで、そのペダンチックなところが篠野さんらしいし、自分の失敗談を語るというマゾヒスティックなところもまた篠野さんである。とは言えそんな自虐的なストーリーでしっかり自分を語るところがまた篠野さんである。この失敗談はしかし実は失敗談ではなく篠野さんのチャレンジの歴史と見るほうが正しい。型にはまった安全な論文を作り続ける凡庸な学者であることを捨てて、常に未開の地に新たな武器を持って突撃する勇敢な学者の勲章だと私には思える。
30年前と全く変わらぬ精悍な外観とはつらつとした喋り口に元気と勇気をもらった。彼がいなければ僕らのコルビュジエ論文は生まれなかったと確信もした。今日はとてもいい日である。