坂本一成の小ささによる親しみ
午前中代田の町家を見学に行った。売りに出されており、買主が見つかる前に最後のお披露目ということのようだ。以前一度見せていただいたことがありその時の印象が鮮烈で2度見る必要はないかなと思ったのだが、やはり名残惜しくまた行った。
印象は変わらない。最初の印象通りである。それは一言で言えばスケールである。坂本先生のこのころの建物の垂直方向の高さのとり方は曰く言い難い。簡単に言えば低く感じるように作られているのである。先ずファサードが低い。いや実際にはそんなには低くないのかもしれないが低く感じられる。そして内部に入るとやはり低い。いやこれも全体的にべったり低いわけでもないので低く感じられると言った方がいいのかもしれない。高いところもあるのだから。それは天井だけではない。椅子とか手すりとかキャビネットとかが低いのである。
一般論で言えば和室は床に座るのでその関係性で周囲が少し低めに抑えられる。一方椅子に座る部屋なら周囲は少し高くてもおかしくない。だから椅子の場所が高くて畳は低いというのが一般論でありこの家でもそれはそうである。しかし世の中一般のそれとは少し違う。例えば広間は二層吹き抜けである。木造住宅のごく普通の階高を考えれば5メートルくらいあってもいいのだがそんなに無い。おそらく4メートルちょっとというところだろう(間違っていたら恥ずかしいけれど)。そしてそこにある作り付けのソファが低い。SH300無いしソファー上に頭を押さえつけるように庇が出ている。2階の和室は片流れで低い方は1800くらい高い方は2500くらいはあるかな?洋室は天井が切妻型で結構高いが普通800くらいある窓台が椅子の高さである。二階の廊下は片流れで低い方は頭がぶつかりそうである。そして手すり兼収納は500くらい。
かくのごとくどこも少しずつ低く感じられる。決してとんでもなく低いわけではない。だから逆にボディブローのようにじわーっと効いてくる。
四方田犬彦が『かわいい論』の中でかわいいの本質の一つに小さいことを挙げていた。つまり世の中に出回っている寸法より少し小さいものには何か子犬を見るような可愛らしさを感じるということである。そしてかわいらしさは親近感に通ずる。坂本建築をいろいろ見てきたがこの親しみがいいのだなああと思うに至った。