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オックスフォードのチュートリアル教育の素晴らしさ

苅谷剛彦さんという東京大学の先生の著書を何冊か読んだ記憶があった。その苅谷さんの書かれた『イギリスの大学・ニッポンの大学』中公新書クラレ2012という本があり読んでみた。苅谷先生は2008年にオックスフォード大学の教授公募に応募し、いくつかの審査やインタビューの後、晴れてオックスフォードの教授になられた。50を過ぎて海外の教員に応募すると言うのもなかなかの勇気がいるものだと思ったが、応募を決断したのは「あなたもワールドクラスの学生を教えてみないか」という誘いの言葉だったそうだ。
ワールドクラスの学生に惹かれたと言うことは自分の教えている学生はそうではないと思っていらっしゃったと言うことの裏返しでもあろう。この本はそうして行かれたオックスフォードで経験した日本の大学(と言っても東大だが)との差が書かれている。それを読みながら羨ましくなった。
オックスフォード教育の最大の特徴は、チュートリアルと言う学生の個別指導。毎週課題図書リストをわたしそれを読んでA4、10枚程度のレポートを書かせ、それについて先生と学生がディスカッションを行うものである。学生は一日約8時間の勉強を義務付けられる(というかそのくらいやらないと課題図書を読み、レポートを書くことができない)。もちろんバイトなどしている暇はない。これがfulltime studentなのであり東大生はさしずめpart time studentだと著者は感じたそうだ。
オックスフォードの教育で最も重要なことは批判的な思考でありそのための個別のディスカッションなのだと言う。その代りオックスフォードでは講義は単位授与の役割を担わず、学生の参考書のようなもの。単位というようなものはなく、卒業は授業やディスカッションとは直結しない卒業試験で決定される。
批判的思考をするとは先人の知恵をすべて消化したうえでそれを客観的に乗り越えて行くこと。そのためには徹底したリーディング+そこに立脚した自らのオピニオンを相対化する能力を養うことなのだろう。
僕は日本の大学では財政的にも制度的にも困難なこういう教育をしたくブログを使ったヴァーチャルディスカッションを信大時代からやっているが、こんな異国の話を聞くとつくづく羨ましくなる。これが教育であると思う。
羨ましいと手をこまねいているのも悔しい。そこで今日からやれるところまでやってみようと思い、演習授業の学生発表の後の40分くらいを徹底してディスカッションをすることにした。オックスフォードと異なり学生数は多い。果たしてこんなことは白けて終わるかもしれないと疑心暗鬼でもあった。しかしやってみて多少の手ごたえを感じた。くらいついてくる学生はいるものだし、批判的な思考をきちんと持ち合わせている学生もいた。今日はそんな学生に会えたのがとても嬉しい。

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