D.ワトキン
D.ワトキン(Watkin, D.)榎本弘之訳『モラリティと建築』(1977)1981を読み返した。建築が建築以外の何ものかの表出の結果として説明されてしまう18世紀以来の建築の批評の伝統をペブスナーに至るまで刻銘に記したのがこの本である。もちろんこうした言説の嚆矢は我々が今翻訳しているジェフリー・スコット『ヒューマニズムの建築』1917ということになろう。早稲田の講義「建築の条件」の一講が「倫理性」なのだが、ワトキンも、スコットも倫理性を含めおしなべて建築以外の何かが建築を決定することを是としない。しかしでは彼らにとって建築以内の何かとは何なのだろうか?ワトキンの書もその部分に批判が集中したと聞く。これだけ建築に求められるものが複雑になっている現代社会において建築が建築以内の問題意識だけで決めていけると考えるのは少々無理があるだろう。もちろん彼らもそれは承知で敢えて建築固有の精神性のようなものを主張しようとしているのだろうが。ワトキンの書が出たのはジェンクスの『ポストモダニズムの建築言語』が世に出る1年前である。世の中がモダニズムに辟易していたそんな風潮の中で、ジェンクスとは違う形で、モダニズムを瓦解するひとつの論理だったように思える。