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言葉と建築

信州大学工学部建築学科:大学院修士課程 2010年夏


第6講 機能 - Function

1、数学的メタファーとしての機能――古典的な装飾の体系への批判

1.1 Lodoli , C

建築に関して初めて「機能」という言葉を用いた

(1740年代)→ ロドリが望んでいたのは素材に作用する力学的な力から導き出さ   

  れるような石の構築や装飾の形式を発達させることであった

ヴェニスのフランチェスコ・デラ・ヴィーニャ教会に付属する巡礼者用宿泊所の驚くべき{?|まぐさ}や{窓框|まどかまち}に見出だされる

    ロドリは「機能」という言葉を数学から借りてきていた。その言葉の数学への導   入は、一六九〇年代にライプニッツによってなされたものであり、それは複数の変数の結合を示すためであった。ロドリの考える機能とは、建築のどの構成要素においても力学的な力と素材とを結合させることであった。

 

2、生物学的メタファーとしての機能

   2.1 ラマルクとキュヴィエの業績によってフランスで生みだされた科学である生

    物学において、「機能」という言葉はひとつの要となる概念

2.2 Viollet-le-Duc

ヴィオレにとって「機能」という言葉は、彼の合理的構築理論全般の基礎をなす重要な概念だった

      さらに彼はメタファーが生物学に起源を持つことを繰り返し明言

 

3、「有機的な」形態理論における生物学的メタファーとしての機能

3.1 ルイス・サリヴァン(Sullivan, L. )

形態と機能についての有名な発言の背景にある文脈   

ドイツ・ロマン主義において「形」は「力学的」であるか「有機的」である

     かのいずれか

この区別はA・W・シュレーゲルが最初に行ない、1818年にコールリッジ

(Coleridge, S. T. )によって英語にパラフレーズされた。

「ある所与の素材に、それ自身の素材としての特性から必然的に生じてくるのでない既定の形態を押し付けるとき、その形態は力学的である。たとえばある粘土の塊に何らかの形を与え、それが硬くなっても保持されるように望むときなどだ。それに対して、有機的な形態というのは内発的なものだ。それはそれ自身の内側からの発展につれてかたちづくられる。その発展が満たされることと、その外側の形態が完成に至ることとは、同じひとつのことである。それが生命というものであり、形態というものだ。」

3.2  Greenough, H

英語圏で最初に「機能」という言葉を建築に適用したアメリカの彫刻家、芸術理論家

      20世紀的な機能主義を先取りしたことにではなく、むしろ「機能」という観念を

    通して「キャラクター」の概念を用途と結び付けることで、この旧来の概念に新しい生命を吹き込んだことにある

若きルイス・サリヴァンを虜にした 形態は機能に従う_〔_form follows  

  function_〕」・サリヴァンに関するかぎり、「機能」とは「有機的な」形態を規 

    定する内的な霊力なのであり、対する「環境」は、ロマン派の用語法においては外部的な動因として「力学的な」形態を規定するものなのだ。

 

4、「用途」を意味する機能

―ある建物やその部分に定められた活動を記述するものとして「機能」という言葉が使われることは現代では珍しくないが、二〇世紀以前には思いのほかまれ

 

5、ドイツ語の「sachlich〔即物的〕」「zweckmassig〔合目的的〕」「funktionell〔機能的〕」の訳語としての機能

 

5.1即物性|sachlich (物の成り立ちとして理にかなっていること)

5.1.1 Streiter, R

 1896年 即物性|ザッハリヒカイトという言葉を次のように使っている

「我々ドイツ人は、英米の住居の特性の多くを模倣することはできないし、するべきで

はない。それらは我々の状況に適合したものではないからだ。しかしそれらから多く 

を学び取ることはできる。なによりも第一に、また最も広範にわたって学ぶべきは、住宅設備の合目的性、即物性、快適さ、衛生などの要請を考慮に入れるということだ。(1896】)

   5.1.2  Muthesius、H

リアリズムの目標を明文化:ムテジウスの目的は、英米の住宅建築の実用性

と同等のものをドイツに見いだすことであり、彼はそれを十八世紀ドイツの中流階級の非記念碑的な建築に見いだした

「我々は、我々の身の回りの、大きな橋梁、蒸気船、鉄道車両、自転車……といったものに、真に近代的な発想と新しいデザインの諸原理が体現されているのを見いだし、それに注意を向けずにはいられない。そこに我々が認めるのは、科学的と言われてもよかろう厳密な{即物性|ザッハリヒカイト}であり、装飾の表面的な形のどれをも慎むことであり、その作品が奉仕すべき目的に厳格に従うデザインである」

新即物主義〔Die Neue Zachlichkeit〕は、非=表現主義的な近代芸術の総称だった

 

5.2 合目的性│Zweckmassigkeit (使用者の目的に対し理にかなっていること)

 文字通りには「目的〔purpose〕」を意味するドイツ語のZweckツヴェックという単語 ドイツ語圏では、直接的な物質の要求を満たすもの――実用性――を意味するだけでなく、内なる有機的な目的ないし宿命――サリヴァンの使った意味での「機能」――という意味でも使われていた。

    二十世紀の初期になってさらに美学的な意義をこの単語に付加する試みがなされ、   それはカントが美的なもののカテゴリーから特に目的を排除していたことからすれば、芸術を成り立たせているものについての理解に大きな転換を生じたことを暗示

   5.2.1  Frankl、P.

1914年に出版された『建築造形原理の展開』四つのカテゴリーを通して建築の変化の過程を分析

  − 空間的形態〔spatial form〕

− 身体的形態〔corporeal form〕

− 可視的形態〔visible form〕

−「目的的意図〔purposive intention〕」(Zweckgesinnung)

 

「たとえ十八世紀の宮殿がその家具の一部ないし全部を保持していて、観光客がその

各部屋を案内されて見て回れたとしても、それはやはりミイラなのだ」(159)。

「それでもなお」とフランクルは続ける。「この消失した生気の痕跡は、その目的が

空間の形態のなかに具現化されている範囲で、建物の背後に残っている」(160)。

→ この発言における「目的」と「空間」との和合こそ、1920年代に起こった

ことを予示するもの

5.2.2 1920年代ベルリンの左翼建築家サークル(Gグループ)

合目的性|ツヴェックメーシヒカイトの強調は重要な関心事

既存の建築美学の発想すべてを意図的に撹乱し、そうすることで、カントが

芸術の外にあると主張していた目的を、いまやまさに芸術の主題そのものとした

 

 

ミースは一九二〇年代の後半にはこのような観点から距離を置くようになった。一九三〇年に書かれた「美しく実用的に建てよ! 冷たい機能性[Zweckmassigkeit]に終わりを」においては、より穏当な、つまり当代の「機能偏重[zweckbehaftet]」の建築に批判的な立場をとり、機能に注意を払うことは美の前提条件ではあるが美へと至る手段そのものではないというムテジウスやベルラーヘに近い観点に立ち戻った。こうした発言を英語の「function」という言葉で訳してしまうとミースの転向を誤解しかねないということは指摘しておくに値するだろう。彼が{Sachlichkeit|ザッハリヒカイト}ではなく{Zweckmassigkeit|ツヴェックメーシヒカイト}という言葉を使ったことから明確にわかるのは、彼が言及しているのは目的の表現についてであって、構築の合理的な表現についてではないということである。

 

6、一九三〇〜六〇年の英語圏における機能

「近代」建築にまつわる万能語

『インターナショナル・スタイル』

ヒッチコックとジョンソンの意図は、彼らがヨーロッパ的なモダニズムから取り去ろうとした側面――その科学的、社会学的、政治的な主張――を「機能的」という言葉で特徴づけた。しかし近代建築を純粋に様式的な現象として提示するために、彼らは「機能主義〔functionalist〕」建築という架空のカテゴリーを発明し、社会改革的ないし共産主義的な傾向を持つ作品をそこに押し込んでしまわなければならなかった。彼らは「機能主義者」を「様式のあらゆる美学的原理は……無意味かつ現実離れしている」と考える者たちである(35)と性格づけたが、それは実際のところ、ヨーロッパで起こっていることとはほとんど無関係なものであって、

 「機能」を貶めるこうした動向に対して、一九四〇年頃になるとそれを再建することに尽力する近代建築家や批評家も現れはじめる。

このような試みの最初の表れのひとつは、アルヴァ・アアルトによって示された。一九四〇年、「建築の{人間化|ヒューマナイゼーション}」というその時期の有力な主題ともなった事柄についての文章において、彼は「技術的な機能主義には決定的な建築を創造することはできない」と書いている。近代的な主流の外側、すなわちかつてのダダイストやシュルレアリスト、また後にシチュアシオニストとなる者たちなど、機能主義に対する反抗を己の立場を明確にする主たる方途のひとつとしていた側からの圧力もまた、近代建築家たちに機能主義の擁護を余儀なくさせた。

 

7、形態‐機能というパラダイムとしての機能

「環境〔environment〕」という概念の導入である。じきにわかるはずだが、それがなければ我々がここで理解しようとしている現象をそもそも記述することさえできなかったのである。

 

 建物と用途の関係をめぐる理解を変化させた社会の理論の源となったのは、もちろん生物学だった。生物学が社会の研究に与えたものとして、「機能」や「階層秩序」といった考え方に加えて、周辺環境|ミリューないし「環境」の概念があった

 

古典主義的な_適切さ_に欠けており近代的な機能主義に含まれていたのは、人間社会は物理的かつ社会的な状況との相互作用を通して存在しているというこの考え方である。

 

   アルド・ロッシの『都市の建築』

機能のみでは都市の人工物の持続性を説明するのには不十分である。仮に、都市の人工物のタイポロジーの起源が単に機能であるとしても、これは〔一部の建物が〕存在しつづけているという現象の説明にはならないだろう。……実際には、我々はその機能がはるか昔に失われた諸要素にしばしば価値を認めつづけている。こうした人工物の価値はしばしば、単にその形態の内にあるものである。それは、都市全般の形態に不可欠なものである。

 

 ロッシの後そう長くないうちに、それについて書く者は長らく現れなかったが、フランスの哲学者であるアンリ・ルフェーヴルとジャン・ボードリヤールは共に、「機能主義」を定義することに対する類似した衝動を示していた。ルフェーヴルにとって(そして彼はこの点はロッシと共有していたのだが)「機能主義」とは、使用を固定するためにその対象を貧しくするものであった。