蜷川実花展
東京オペラシティアートギャラリーで蜷川実花展-地上の花天上の色-が行われている。ここで行われた展覧会でこれほど人がたくさんいたのを見たのは初めてだった。それも来ているのは若い女性。しかもいつも美術館などには足を運びそうもない普通のおしゃれなOLという風情の方が多い。そして彼女たちがこぞって3000円近い展覧会カタログを買っていく。ミュージアムショップが人で埋まっている光景を見たのも初めてである。明らかにこれはアーティストと呼ばれる人たちの発表の場ではない。そうではなくこれは芸能人の出版サイン会のようである。
蜷川の父幸雄は自分のやっていることを芸術ではなく芸能だと言っていたそうだ。そしてそれに強い影響を受けた彼女だからこそこういうことになっているのだろう。それは具体的に言えば、被写体に選ぶもの。そのとっつきやすさととらえ方の分かりやすさ。また誰でもが興味を持つ色へのこだわり、そして年3冊ずつ出版する写真集の量。このあたりが芸術ではなく芸能を自負する彼女の戦術だろう。しかしだからと言って彼女は安直なポピュリストではない。10年間徹底してこの方法を貫いてきた。方法も言うことも全然ぶれない。この精神力は並大抵ではない。単に戦術として理性的に行使できることとは言い難い。生まれ持った表現者としての意地が備わっている。やはり蛙の子は蛙ということなのかもしれない。