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2008年11月23日

蜷川実花展

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東京オペラシティアートギャラリーで蜷川実花展-地上の花天上の色-が行われている。ここで行われた展覧会でこれほど人がたくさんいたのを見たのは初めてだった。それも来ているのは若い女性。しかもいつも美術館などには足を運びそうもない普通のおしゃれなOLという風情の方が多い。そして彼女たちがこぞって3000円近い展覧会カタログを買っていく。ミュージアムショップが人で埋まっている光景を見たのも初めてである。明らかにこれはアーティストと呼ばれる人たちの発表の場ではない。そうではなくこれは芸能人の出版サイン会のようである。
蜷川の父幸雄は自分のやっていることを芸術ではなく芸能だと言っていたそうだ。そしてそれに強い影響を受けた彼女だからこそこういうことになっているのだろう。それは具体的に言えば、被写体に選ぶもの。そのとっつきやすさととらえ方の分かりやすさ。また誰でもが興味を持つ色へのこだわり、そして年3冊ずつ出版する写真集の量。このあたりが芸術ではなく芸能を自負する彼女の戦術だろう。しかしだからと言って彼女は安直なポピュリストではない。10年間徹底してこの方法を貫いてきた。方法も言うことも全然ぶれない。この精神力は並大抵ではない。単に戦術として理性的に行使できることとは言い難い。生まれ持った表現者としての意地が備わっている。やはり蛙の子は蛙ということなのかもしれない。

2008年11月09日

ヴィルヘルム・ハンマースホイ

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ライアの風景1905
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若い女性の後ろ姿1884

国立西洋美術館でヴィルヘルム・ハンマースホイ―静かなる詩情」展が行われている。それほど世界的に名前が売れている画家ではないだろうし、僕ももちろん前から知っていたわけではない。街中でチラリと見かけたポスターが気に入って見たいと思っていたら、かみさんに誘われた。
デンマークの世紀末(19世紀末)の画家である。精緻な筆致と淡泊な色遣いは比較的穏当な絵画のように見えるが、当時のデンマークのアカデミーからは前衛として敵対視されていたようである。特徴的なのは女性の後ろ姿が多いのと17世紀オランダ絵画の影響を色濃く受けた室内画であろう。
静かなる詩情というタイトルが示す通り多くの作品から詩的な感興をもよおすのは確かだが、その原因はかなり計算されたフォルマリズムであることに気づく。もちろんで画家である以上構成や形に知恵を絞るのは当たり前としても、彼の注意は一貫性があり方法化されていたように思う。まず、印象的な形を前景化させるために不要な素材を描かない。あるいは自然を描くときも形が鮮明になるよう、近景、中景、遠景という遠近感が生まれる描法をとらない。この二つの方法を聞くとかなり抽象化された絵画を想像するが、そうではなく、こうした方法をとりながら徹底した写実主義なのである。それがクールな詩情を芽生えさせている。印象派がパリで全盛を迎えるヨーロッパの片隅でこうした絵を描いていた画家もいたのである。