白のパンタロンと上着を着たシャネルと
リュシアン・ルロン
ヴェニス 1931
エドモンド・シャルル・ルー『シャネルの
生涯とその時代』
鎌倉書房1990より
社会に出て建築の設計を始めて数年すると、周りの人の描いている図面が気になり始める。一体自分の描いているものはなんぼのものだと思うようになる。そして先輩同輩の図面をしげしげと眺めると、それぞれにデザインの癖のようなものがあることに気付く。
そのなかでも曲線を使うか使わないかというあたりはひとつの分かれ目のように感じた。現在のようにcadが普及しているとさほど感じないが、手描きだったそのころは、曲線を使うのは図面技術の問題からも、数値をうまく整えていく上でもなかなか難しいことだった。だからそれができる人はデザインができる人のように言われた。そして曲線=優美という一つの美的価値を獲得していたように思う。
ライトが曲線を多用したジョンソンワックスビルを女性的と呼んだそうだが、優美が建築の価値となるのと女性の社会進出とは無関係ではない。それまでの男性社会では建築は男性的であることがよしとされていたのだから。