ジャン・ペロー『エッフェル塔の前で』
成実弘至編『モードと身体』
角川書店2003より
建築界には「豪邸問題」と言う言葉がある。「豪華」な住宅が必ずしもいい建築作品にはならないという事柄を意味する。潤沢な資金のもとに作られる豪華な家は一見素晴らしい建築作品になると思われがちである。しかし、なかなかそうもいかない。そうした潤沢な資金を持つクライアントが抱く豪華さを象徴するデザインのステレオタイプが建築家の創造性と齟齬をきたすのである。つまり建築の創作を困難なものにしてしまうのである。その昔、様式の使い方とその修辞が建築家の技だったときはまだしも、現在こうした類型化した技法を当てはめても創作にはならない。
しかし昨今のクライアントは徐々にそうした類型化した豪華さが所謂「成金」という記号になることを知り始めた。それを恥と思うようになってきている。かれらもかなり勉強をしている。その中で彼等は記号を求めなくなり、徐々に本当の意味での生活のクオリティを欲している。それは階級を忌避し、格差を見せず、個別性を望むことのようである。