その昔東京湾横断道路「 アクアライン 」の「 風の塔 」を設計していた時、藤森氏は設計案を審議する景観委員会のメンバーの一人であった。確か最初の委員会であったと思う。道路公団の幹部もいるような比較的生真面目な検討の席に私は10個くらいの模型を提示した。その時の藤森氏の発言は今でも忘れられない。「坂牛さんの好きな案がいいんじゃないですか。意見が沢山入るとモニュメントなんてできないからなあ。エッフェル塔だってできたときは多くの批判を浴びたのだし」明るく屈託無いこの言葉に回りの委員が皆びっくりした。僕自身どう対応してよいものやら言葉を失った。
藤森氏は私にとって正にこの言葉そのものである。好きなように生き、好きなように建築を作る。諏訪の野原を駆け巡っていた藤森少年がそのまま大人になりその時の気持ちのまま好きなことを屈託無くやっている。それが歴史家藤森の戦略だとしても、それは戦略がたまたま彼の好きなことに一致したにすぎないかのように見えるのである。いや見せているのかもしれないが、それが藤森らしさということのような気がする。
初出:『ザ・藤森照信−総勢100名による徹底探究・歴史・設計・人間』エクスナレッジ 2006.10
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