ファサード(画面中央)
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建設現場
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設計主旨
東京都心の商業地域に建つ小さな住宅である。東京中央区ではタワーマンションと呼ばれる超高層マンションが全盛の現在、その足元には今もなお間口の狭い低層住宅がひしめく小さな街区がいくつも残っている。都市に住まう人々のすべてが眺望の良い高層集合住宅に暮らしているわけではないし、また人々はそうしたスタイルだけを追い求めているのではない。敷地の間口幅がきわめて狭く、プライバシーや日照の確保が困難なエリアの中で、快適で魅力的な住環境を獲得するために、ここではまず建物の縦断面のレイアウトを練ることから設計を始めた。狭い土地とはいえ、建物は地面と直に接することができるし、頭上には青空や星空も残っている。また視線の高さ関係によって、街路のヴィヴィッドな風景を室内に取り入れることもできる。こうした利点のひとつひとつを住宅の断面に対応させていくことで、21世紀の東京長屋(ローハウス)としての新たなタイポロジーを浮かび上がらせることできるはずである。
場所は、東京八重洲から続くオフィス街と隅田川沿いの高層住宅街のちょうど中間にあたる住商混在地域である。この辺りは十年前のバブル崩壊以降、開発が中途半端に凍結しているブロックが点在しており、新しい景観と古い景観が輻輳しあう奇妙な街並み(逆に東京的であるといえばそうであるが)を形成している。現状において、間口3.7m×奥行約14mの短冊状の敷地は、前面に幅員22mの整理された並木通り、後ろに幅2.5mの路地、右手に高さ20mのマンション、そして左手に2階建て木造家屋という、スケールの劇的に異なるものが相互に隣接する環境の狭間にある。こうした現状も数年先には大きく変化することが想定されるので、現況の物的な状態を信頼しきって建物をデザインすること、住宅としての用途に限定してプラニングすること、そして建物を堅牢につくってしまうことに、すべてリアリティがもてない気がした。
建物自体の幅として約3メートルしか取れないことは明白であり、そのスパンの中で住空間をどのように組み立てるかが大きなポイントであった。まず内部空間の有効幅を最大にするために、外壁の厚みを最小限にして躯体を内部に露出させることで、有効幅を2.95mまで獲得した。これにより階段が短手方向に配置でき、さらにベッドやテーブルなどの家具のレイアウトなどに余裕ができたので、最終的に直列型の部屋割りプラン(部屋相互が廊下を介せずにつながっている平面形式)となった。さらにそこに、地上レベルのポーチと2階レベルのコートの2つの外部空間を挟み込むことで、幅は同じだがレベルや天井高などが異なる8つの小部屋をセットした。それぞれの小部屋は、空間上互いに連続しているようで立体的に切れており、用途的にも1つの部屋で2つ以上の使われ方が可能なような広さを最小限確保している。自立していながらもたれ合うような曖昧な関係を部屋の相互につくることで、建物全体にわたって住むことを覚醒させるような場所の構築を意図した。
また、全体の工期を短縮するために以下の工法的視点も考慮した。(1)2本の柱と桁とブレースを1セット(約1.5m×5mの版)にして工場製作するなど、鉄骨部材は可能な限りプレファブ化して現場へ搬入し、建方をすばやく完了する。(2)外壁材かつ内装材かつ断熱材として複合パネルを使用するなど、建物全体の部品数を少なくするために、高性能な既製品を多用する。(3)木工事や建具工事などの現場で手間のかかる工事を減らす。(4)最低限必要なところまで施工し、あとは住みながら自分で徐々に作っていく。最終的に、着工から約2ヶ月で工事は無事完了した。
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