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言葉と建築

信州大学工学部建築学科:大学院修士課程 2008年夏

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第10講-2 簡潔性 - simple

1、モダニズムの教条

1.1 Le Corbusier  1930

「辛抱強く繰り返し述べ続けなくてはいけないことだが、偉大な芸術は簡潔な手段から生まれる。歴史は、私たちの精神が簡潔性へと向かうことを示している。簡潔性は判断の、そして選択の結果であり、熟達していることの顕れである」

1.2 Jhonson, P『ミース・ファン・デル・ローエ』1974

バルセロナ・パビリオンについて次のように書いている。

「その設計は{簡潔|シンプル}であると同時に{多様│コンプレックス}である」

1.3 Lynch,K

都市設計が目指すべきものは、「形態的な{簡潔性|シンプリシティ}」、つまり幾何学的な意味での形態の明晰性と{簡潔性|シンプリシティ}や部分の限定である。【要確認】……このような性質の形態は、イメージの中だとより容易に組み込むことができる。逆に観察者たちが複雑な事実を{簡潔|シンプル}な形態に歪曲していることは明らかである」

 

2、 ロココ様式に対する十八世紀の批判_。

2.1十六世紀のSerlio

「{簡潔性|シンプル}」を彼の批評言語の中で肯定的な用語として採用した。その後は、古代建築を説明するための一般的な言葉となっていたが、{簡潔性|シンプル}が最初に_論争的な_言葉となったのは、

2.2十八世紀中ごろのフランスとイタリアでのロココ式に対する批判においてであった。一七五〇年代までには、{簡潔性|シンプリシティ}の美点は、ロココ様式に反対する者によって恒常的に主張されるようになっていた。

2.2.1 Patte, P 1754

「巧妙に仕立て上げられている雰囲気を建築に与えたいという願いから、常に建築の主要な特性であった壮大さと高貴な{簡潔性|シンプリシティ}は取り払われてしまっている」

2.2.2 Milizia, F 1768

「建築のその病は、余分なものがありすぎることから生じている。したがって、建築を完全なものにするには、そうした余分なものを排除し、建築の外観を損なってしまう愚かさと気まぐれによるそれらの装飾を引き剥がさなければならない。{簡潔|シンプル}であればあるほど、建築はより美しくなるのである」

2.2.3 Laugier, M.A.『建築試論』1753

簡潔性を建築が自然に生まれたときから備えている原初的な特性であると議論する

2.2.4 Blondel、J.-F. 『建築講義』1777)

簡潔な建築は、すべての建築の中でも最も高く評価されるべき建築である。簡潔性は、巨匠たちの作品に見られる特質である。簡潔性は、芸術では定義することができず、最も有能な教授であっても教えることのできない特性を孕んでいる。

2.2.5 Soane, Sir J.

装飾に関して、彼は次のように警告した

「若い建築家は間違った次のような考えへ導かれてしまうことがよくある。その考えとは、装飾を惜しみなく施すことが常に建物の美しさを増すというものである。これは間違いである。あらゆる真の装飾を見出すことができるのは、簡潔性の中でこそなのである」

一方ソーンは過剰な簡潔性が平凡さや単調さを生み出してしまう危険性に気づいていた

 

3、手段の経済性

- Durand, J.N.L.『建築学講義概要』1805

簡潔性は全体を通して繰り返し言及される重要な用語の一つであった。デュランの用法の中での簡潔性が持つ独特で革新的な意味は、以下の引用部に現れている。「建築は対称的であればあるほど、規則的であればあるほど、そして簡潔であればあるほど、費用を抑えることができるという結論に至るだろう。経済性が、全ての必要部分について最大限の簡潔性を指示すれば、不必要なものは必ず排除されるということを付け加えるまでもない」

 

4、芸術と建築の歴史における一局面として

-芸術が進歩的な発展を遂げるものであることを示したことが、十八世紀におけるヴィンケルマンの学問的な成果であった。ヴィンケルマンの調査は、古代ギリシア芸術と、興隆期、古典的卓越期、退廃的没落期の三つの歴史的局面への分類に集中していた。最初の局面での芸術は、「膨張と誇張」、つまり行き過ぎた情熱に特徴づけられる。だが、古典期には、「高貴なる簡潔性と静かなる偉大さ」(p.13)に移行する。

 

十九世紀ドイツ美術史の中では、「簡潔性」が様式の歴史的発展の成熟した局面を特徴づけているという見解は自明のことであるかのように受け入れられた――また、モダニズム建築家が自分の作品を簡潔だと描写した際に、この連想を用いることで、作品の成熟と歴史的正当性を強く主張しようとしていたことは疑いようもない。

 

5、質素な生活、事実に即していること

-Muthesius, H『様式建築と建築術』(1903)

今日誰もが働くのと同じように、皆の衣服が中流階級向けのものであるように、そして現代の新しい建築上の形態が(それらが建築家の作品でない限りでは)完全な簡潔性と素直さの路線に乗っているのと同様、私たちは本質と目的が簡潔で素直な中流階級の部屋に住みたいと思うのである。

これに関して重要な考えは、ムテジウスが採用した即物という言葉に込められている。この語を直接英語に翻訳することはできない。というのも、その言葉は、「実用的」、「物質的」、「事実的」、「事実に即した」、「飾り気のない」、「判明な」、「機能的」といったさまざまな意味を持っているからである。

 

6、生産の合理化

-最後に現われてきたモダニズム固有の簡潔性の意味は、ヘンリー・フォードが廉価自動車を生産するために用いた方式に由来していた。これらの考えは一九二〇年代のヨーロッパに衝撃を与え、建造物の製造と建築的実践だけでなく生活の質全体に革命をもたらすという期待を広く流布させた。この期待は間違っていたかもしれない。だが、この衝撃と期待がこのフォードの考えをモダニズム時代における「簡潔性」の最も強力な参照の一つにしたのである。ヘンリー・フォードは、自伝『我が一生と事業』(1922)の中で、自らの教義を提示している。