奥山vs坂本vs篠原
奥山さんの新作
東京テックフロント:坂本一成
午前中奥山さんの新しい建物を見せていただく。コンクリート打ち放し3階建ての小さなオフィスである。矩勾配の切妻屋根の塊がファサード中央の壁柱一枚で支えられている。シンボリックなファサードが246から一歩入った住宅街の中で屹立している。このところ3つ見せていただいた彼の建物は全て打ち放しの切妻屋根である。都心の厳しい斜線制限の中では自然なスタイルかもしれないが斜線なりにできたと言うわけでもない。その意味で彼の形への意志を強く感じる。一階の一本足の案山子のような作りは車を2台停めるために機能的に必然的な形とも見えるが、もちろん中央を空けて両側を支持しても機能は遥かに素直に満足できたわけである。ここにもシンメトリーにこだわる形への意志を強く感じる。加えて2階の打ち継ぎをスラブレベルで行なわず床上1メートルくらいのところで行ない、その目地を潰して見せないディテールにも外観を均質にみせる意志を感じるとともに初めて知る技でもあった。内部は外観のシンメトリーと2層に亘る大開口が素直に反映されている。2階から屋上へと連続するヴォイド、そして3階空間にぶら下がる屋上ペントハウスの形態は彼が初期の建物から貫いている形式である。その昔彼は、建物輪郭線はもはや建築家の意志が反映されるものではなく社会的要件で決定されるものであり、建築家の意志は内部の核に作りこまれるという2系の論理を新建築で展開していた。そのころに比べると大きくその作り方が変わった。
午後東工大に行き坂本先生の東京テックフロントを初めて見ることになる。大岡山の駅からではなく、緑ヶ丘の建築棟の方からぶらぶらと歩いて行った。先ずはその道がそのまま真っ直ぐに建物の中を(といっても外部)貫通して駅に達していることに驚いた。幅10メートルくらいの大学内の道が建物を貫いてキャンパス外に繋がっているのである。普通はここに大学の門というものがあるはずである。しかしそれが無い。開放への強いこだわりが建築化されている。だから建物のいたるところに付近のおばちゃんおじさん、アベック、その他がうろうろしている。この開放感はもちろん坂本先生の望むところであり、そんなことは図面の段階や新建築で見て想像していたのであるが、これは味わうまでは分からない。この道を通り抜け大岡山の駅までたどり着いて振り返ると左に篠原一男の東工大百周年記念館、そして右にその弟子の坂本一成の東京テックフロントが並んでいる。方や街中に屹立する彫刻であり、方や街に溶け込むノイズ(と言えば言い過ぎだが)である。実施設計は日建の杉山さんが頑張ったものと聞くが、至るところに日建だからできるだろう技も垣間見られた。
奥山氏と二つの建物を見ながら話す。彼は執念の形と執念の場であると評する。執念の場を作った坂本の弟子であった彼が今「執念の形」を作ろうとしているのだろうか。朝見た彼の形への意志は執念の場への決別とも感じられるものである。